『自由か世間体か』(ショートショート)

私は結婚について迷っていた。

自由か世間体か…

40歳を手前に自由などと言っているのも馬鹿らしいのかもしれない。

ここ数日、独身と既婚のメリットとデメリットを何度も頭の中で反芻している。

だがその答えが出ることはなく、堂々巡りを繰り返す。

独身なら自由気ままに生きていくことができる。

給料だって全て自分のために使うことができる。

色んな女と遊ぶことだってできる。

だが40歳を過ぎて独身の男は世間からどう見られるのだろうか?

特に自分のようなお堅い職業の人間は、結婚していることで得られる信用もあるのかもしれない。

決断の時が迫っている。

真美子は私を急かす。

同級生の彼女も間もなく40歳になる。

いつまでも無意味な関係をズルズルと続ける気はないそうだ。

愛のない関係を惰性のまま続けて彼女の可能性を奪うのも心が痛む。

私は腹を決めた。

お互いのために自由を選ぶことにした。

目の前に置かれたその紙は10年前に書いたものと同じような体裁をしていた。

すぐに認識できる違いといえば、表題の文字くらいだろうか。

「婚」の字が2文字目に移動していた。